健康保険の財務諸表をチェックしたら生保の医療保険が不要な事が明らかに

「組合けんぽ」の決算をみてみたら、驚くべきことがわかりました。私たちが払っている保険料よりも、給付の方が大きいのです。

その一方で、生命保険会社が販売する医療保険は、約半分が手数料だと言われています。非常に手数料が大きいのです。

それでも生保の医療保険って必要なのでしょうか。

生命保険会社の医療保険は必要?不要?

テレビのCMなどで時々、生命保険会社の医療保険のCMが流れることがあります。あれをみていると、生命保険会社は医療保険の販売に力を入れいてる事がわかります。

そして、CMを見ると、医療保険は役立つ丈でなく必要だというイメージを持つ人もいるでしょう。

その一方で、生命保険に関する本や雑誌の特集記事を読んでいると、生保会社が販売する医療保険は不要であるという意見の人が意外と多いようです。私自身も、率直に言って、かなり必要性が小さい保険では無いかと思っています。

生保の医療保険の必要性が小さい理由

生保の医療保険が必要ない理由は2つあります。

一つは手数料が高いので、契約者にとって不利な保険だという点です。そしてもう一つは、日本では公的な医療保険(健康保険や国民健康保険)の給付が充実しているので、民間の医療保険を契約する必要が無いからです。

世の中には、公的な医療保険はダメな制度だと思っている人もいるようです。そして、民間の医療保険の方が優れていると、本気で思っている人もいるようです。テレビや新聞のニュースをみていると、マスコミも、こういう悪いイメージを与えたがっているように見えます。

しかし、現実は、完全にその逆なのです。健康保険に代表される公的な医療保険は、給付が充実してる上に、私たちにとって有利な仕組みなのです。

健康保険組合の損益計算書をチェクすると有利な仕組みである事が分かる

公的な医療保険が優れた制度である事を確認する方法は色々あります。実は、健康保険組合などの財務諸表をチェックしても、公的な医療保険の優位性がある程度見えてきます。

お金の出入りに関する数字を追うと、私たちに取って有利な仕組みであることがよく分かるのです。

そして、公的医療保険と比べると、生保の医療保険は取るに足らないような小さい保障しかない制度であることも分かってしまいます。また、単に保障が小さいだけでなく、割高であることもわかります。

このページでは、なぜそんな事が言えるのか、具体的な数字を挙げてみていきましょう。

平成29年度の組合けんぽの損益計算書

今回参考にするのは、組合けんぽの財務諸表、特に損益計算書です。平成29年度のものですね。

それでは、協会けんぽの損益計算書をチェックしてみましょう。細かい話をしても仕方がないので、大きな数字だけいくつか拾っていきます。

収益の中心は保険料と国の補助

まず、協会けんぽの収益ですが、「経常収益」の合計が11,065,444,846,373円と計上されています。桁が大きすぎて分かりづらいですね。約11.1兆円です。

この11.1兆円の内訳ですが、保険料が一番大きくて、9,724,891,415,000円(約9.7兆円)計上されています。次に大きいのが国庫補助金収益で、1,245,314,451,974円(約1.2兆円)計上されています。

この2つだけで約10.9兆円なので、収益のほとんどは保険料と国庫補助収益で説明が出来ます。国庫補助収益というのは、簡単に言うと、税金からの補助のことですね。

費用の大部分は給付に使われている

これに対して、経常費用ですが、合計で経常費用合計 10,447,373,043,555 (約10.4兆円)円と計上されています。ということは、経常収益のほうが大きいので、組合けんぽは平成29年度は黒字だった事がわかります。

経常費用の内訳ですが、主な項目としては、次のようなものがあります。

  • 保険給付費:5,800,133,482,052円(約5.8兆円)
  • 前期高齢者納付金:1,549,308,598,282(約1.5兆円)
  • 後期高齢者支援金:1,835,220,310,675 (約1.8兆円)

この3つで約9.1兆円です。全体の9割弱という感じですね。

費用の中で一番大きい保険給付費は、実際の給付に使ったお金ですね。また、残りの2つは高齢者医療の原資として使われるお金です。ですから、その大部分も給付に回ります。

これ以外は、細かい支出が色々とあります。具体的には、人件費とか郵送費とかが計上されていると考えてください。

ただ、規模が大きい組織なので、スケールメリットが活かせるのでしょう。支出全体の中の事務経費は、それほど大きくは無いようですね。非常に効率的な運営をしていると思われます。

従業員の保険料負担と給付

さて、これだけの情報があると、従業員が支払っているお金と、従業員とその家族に対する保険給付がわかります。

従業員の保険料負担

まず、従業員が払っているお金ですが、保険料の9,724,891,415,000円(約9.7兆円)の半分が従業員が負担している部分です。

なんで半分かというと、協会けんぽの場合は、保険料を事業主と折半することが決まっているからです。事業主、つまり会社が、残りの半分を負担してくれるわけです。

ということは、約4.9兆円が従業員の負担する保険料となります。

従業員と家族への給付

これに対して、従業員や家族への給付は保険給付費の5,800,133,482,052円(約5.8兆円)が該当します。つまり、従業員が払っている保険料と比べて、従業員や家族への給付の方が大きいということですね。

従業員の保険料負担に対して、1.2倍の給付がある形です。非常に有利な仕組みである事がわかります。

企業負担や国の補助があるので有利

なぜ給付の方が保険料よりも大きくなるかと言うと、会社の負担や税金の補助があるためです。

もう、この時点で、民間の医療保険とは比較にならないくらい有利な制度だと分かるでしょう。民間の保険では、制度全体で給付の方が大きくなることは考えにくいですから。1

また、保険給付費以外で大きかった項目に前期高齢者納付金と後期高齢者支援金の2つがあります。この2つは、名前からわかるように、最終的には高齢者の公的医療保険の給付に使われます。

ということは、将来的には私たちも、現役世代の保険料を使って医療を受けられるわけですね。つまり、この2つの高齢者支援金も、私たちにとって単なるマイナスというわけでは無いわけです。

生保の医療保険と比較してみよう

それでは、生命保険会社の医療保険はどうでしょうか。

生命保険会社の医療保険の手数料というのは、ほとんど公表されていません。ただ、一般的に言われているのは、保険料の半分程度は手数料として取られているということです。

これは、保険会社がぼったくっているという話ではありません。民間の掛け捨て保険というのは、そもそも手数料がかかるものなのです。まあ、ちょっと高すぎな気はしますが。

その証拠に、例えば自動車保険でも似たような状況です。ですから、不要であれば掛け捨て保険には入ってはいけないのです。2

とりあえず、この手数料の大きさをみただけでも、生命保険の医療保険はあまり有利でないことがわかります。

さらに言うと、生命保険の医療保険というのは、月にせいぜい1万円程度の保険料という事が多いでしょう。そこから半分が手数料として取られるわけですから、給付にまわるのは5,000円程度という事になってしまいます。

あるいはもっと小さい契約も多いですね。5,000円の保険料というケースだって珍しくありません。

これに対して組合けんぽの場合は、月収(正確には標準報酬月額)が40万円の場合は保険料の従業員負担が約2万円と決まっています。そして、給付は、この1.2倍程度であると考えられます。3

ということは、仮に月収40万円の人の保険料に対して、2.4万円が給付にまわることになります。これは、民間の医療保険で月1万円の保険料だった場合の約5倍の数字です。

このように、生保の医療保険というのは、実は、それほど大きな給付では無いのです。

金額の面から見れば、有っても無くても大きな影響は無いものです。有利不利という観点から見ると、手数料が高くてとても不利な制度なのです。

生命保険の医療保険の必要性は小さいです

これは、単に生保の医療保険が割高というだけではありません。民間の医療保険が割高というよりは、健康保険などの公的医療保険が非常に優れた制度であるというべきでしょう。

実は健康保険というのは事情に充実した制度で、これさえあればかなりの給付があるのです。

それにも書かわらず、マスコミの皆さんは、健康保険がダメな仕組みのように紹介するんですよね。ちょっと理解に苦しみます。

本当に健康保険の仕組みを知らないのでしょうか。中には、なにか意図があって、悪く言いたいだけのような気もしないではありません。

何にしても、公的な医療保険の制度(健康保険や国民健康保険)は明らかに私たちに有利です。となると、公的な医療保険への加入が必須な以上、生保の医療保険に入る必要性から考えないといけません。

公的な医療保険だけでは不足するのかという視点で見る必要があるわけですね。

また、生保の医療保険は、保険料に対する保険金が小さいことを忘れてはいけません。その小さい保障のために、割高な保険料を払う価値があるのかどうかを検討する必要もあるわけです。

まあ、常識的に考えると、どちらのポイントで評価しても、生保の医療保険は不要となる可能性が大きいでしょう。

健康保険組合だとどう違うのだろうか

ここまでは、協会けんぽの決算についていみてきました。それでは、健保組合だとなにか違いがあるのでしょうか。

基本的には、健保組合も協会けんぽも、同じ健康保険法という枠組みの中の制度です。ですから、大きな差は無いはずです。

しかし、細かい部分では違いがあるようですね。

健康保険組合は保険給付費の割合が小さくなる?

例えば、関東ITソフトウェア健康保険組合4 というところの決算データを見ると、支出全体金額が207,077,160千円(約2,070億円)でした。これに対して給付は、法定給付費の89,690,383千円(約900億円)と付加給付費の2,791,517千円(約30億円)でした。合計すると、約930億円です。

ということは、支出全体に対する給付の割合は、45%ということになります。

これに対して協会けんぽでは、支出の総額が10,447,373,043,555 円(約10.4兆円)なのに対して、給付の合計は5,800,133,482,052円(5.8兆円)でした。

ということは、比率でいうと、給付が支出全体の56%を閉めることになります。これは関東ITソフトウェア健康保険組合よりも、11ポイント大きい数字です。

しかも、関東ITソフトウェア健康保険組合は、付加給付という上乗せ給付を含んでも割合が11ポイントも低いのです。これはかなり大きい差だと言っていいでしょう。

保険給付の仕組みとしては基本的には同じなので、協会けんぽの方が加入者一人あたりの医療費が大きいと考えて良さそうですね。使う医療費が少なければ、割合も小さくなりますから。

国庫負担が無い

もう一つ大きいのが、国庫負担の金額です。

協会けんぽの場合は、保険料9,724,891,415,000円(約9.7兆円)に対して、国庫補助金が1,245,314,451,974円(1.2兆円)ありました。これに対して、健康保険組合は、国庫補助がありません。5

このあたりも協会けんぽと健康保険組合の大きな違いと言って良さそうです。


  1. 運用が非常にうまく言うと、プラスになる可能性が無いわけではありませんが。まあ、掛け捨ての医療保険の仕組みでは無理でしょう。 []
  2. 自動車保険の対人賠償責任保険と対物賠償責任保険は必要な保険です。ですから、手数料が大きくても入らないといけません。それに対して、生命保険会社の医療保険はどうでしょう。 []
  3. 先ほど紹介した決算のデータから、給付と保険料の従業員負担分の比を出しました。「5.8兆円 ÷ 4.9兆円」で、およそ従業員の保険料負担の1.2倍の給付があることがわかります。 []
  4. たまたまこの組合のサイトが整理されていたので利用しています。特に何かが優れているというわけではありません。
    https://www.its-kenpo.or.jp/profile/gaikyou/kessan/29.html []
  5. 関東ITソフトウェア健康保険組合の決算では国庫負担金収入として83,570千円(約8,400万円)が計上されています。これはなんでしょう。まあ、金額としては全体から見れば、取るに足りない額なのですが。 []

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